デッサンに使用する材料、スケッチブック(各自の好みにより自由、鉛筆は3Bか4Bこれも経験によって決る。)

 デッサンが取れたら、さしえにかかります。用紙はケント紙を使っていますが、ケント紙もいろいろの性質がありますから、画風によって選ぶことです。デッサンは骨格ですから、そのマゝさしえにはなりません。(そのまゝさしえになる場合もあります。例えば風景画風の場合、或いは点景人物のある風景画等)
 下描は固い鉛筆でする人と柔らかい鉛筆でする人とありますが、私は3B、4Bを用います。鉛筆は会社によって違いますから、自分に合ったものを選ぶことです。三菱、トンボあたりのは良いようです。


 下描が出来たら、仕上げにかかります。私の使用している材料は、丸ペン軟硬二種類平ペン数種。マジックインキ。鉛筆は1Bから7B迄の間を適当に使用します。鉛筆コンテ。筆は線描きに稀印中、小。
 調子をつけるのに文字彩色中、黒は本墨を使います。黒インキは紅花液墨。ケシゴム。ポスターカラーの白。鉛筆を止めるのにフィクサ・チーフ。大体以上の材料で挿絵を仕上げます。


 顔および手のようなこまかい部分は丸ペンでリンカクを取ります。稀印で描く場合もあります。他の部分は鉛筆ないし筆で描き調子をとります。材料は自由ですから、工夫すれば新しい効果が生まれるものと思います。
 芸ごとは常に創作であり、創造であることを忘れてはなりません。



田代光:画、さしえ出来上がり


この絵は新聞の挿絵です。新聞の絵は毎日のことですから構図に苦労します。同じ場所が四日も五日も続くときは、さしえの方は骨が折れます。だんだん画面に変化がなくなって来て、早く場面が変わらないかと思うことがあります。しかしさしえのむづかしさも、面白さもそうゆうところにあります。工夫をこらして変化をつけ、読者をあきさせずに引づってゆけなくては、一人前のさしえ画家とはいえないと思います。


 この絵も同じ場所が数日続いた中の一枚です。神津を上から見下ろすようにして変化をつけてみました。見られるように女が主題ですが、女がきちんと固くなって座っているだけでは、部屋の空気や感情の流れなどが出て来ませんし、絵としても平凡になります。そこで女の手が膝に固く組合わされているのに対して、男の片手を火鉢にかざしてみました。小さなことですが、手の表情のあつかい方によって、画面の感じが、いろいろに変化してきます。


人間の動きは正直に動作に現れますから、動作がが適格に描けるようになれば感情が自然に描けるということになります。私自身なかなか思うように描けません。しかし常に描けることを望んでいますし、絵がけるようにと勉強もしていますが、自分のおもうようにはまいりません。
 申述べることは、まだ尽きませんが、この稿はこの辺で一応ペンをおきます。次の機会に続稿いたします。