浅間六郎『霧の夜の客間』(新潮社、昭和五年)は、佐野繁次郎が装丁した本の中では、かなり初期のものだがあまり知られていないようだ。最近では佐野繁次郎装幀本コレクションのバイブルのようにいわれている「佐野繁次郎装幀図録」(「spin03」みずのわ出版、2008.3)にも記載がなく、佐野本コレクションのカリスマ的存在になった執筆者の西村義孝氏のコレクションにも入っていないのではないかと思われる。



佐野繁次郎:装丁、浅間六郎『霧の夜の客間』(新潮社、昭和五年)


表紙には、貸本屋のラベルが貼られていて、表紙絵の女性の顔が隠れてしまっているのが何とも残念でたまらない。なんとかしてこのラベルをはがしたいのだが、力任せに剥がすと、この時代の紙は表面が弱く印刷面を剥がしてしまうこともあるので、これを剥がすのは、ちょっと気が引ける。


とはいうものの、見たい気持ちは抑えることが出来ずに、とうとう慎重に剥がすことを決意した。左下のタテ組の小さな赤い文字「新潮社・長篇○庫」は、がっちりと古書を包んでいたビニール袋を外す時にセロテープが触れてしまい、「文」の文字が無くなってしまったのだが、ちょっと残念。



貸本屋のシールをはがして、女性の顔が見えるようになった佐野繁次郎:装丁、浅間六郎『霧の夜の客間』(新潮社、昭和五年)。美人というよりは、ちょいワルおじさんのように見えなくもない。佐野はヌードは得意だが、顔はどうもいただけない。


ネットの古書市で『霧の夜の客間』を検索してみると17,850円と、かなり高価で売られているが、きっと保存状態がいいのだろう。でも私にはこれで充分。なんといっても古書価500円はかなり安いので、結構嬉しい。屋外にある本棚からこの本を見つけ出し手にした時は、中が見られないようにしっかり梱包されていて、佐野の装丁とはわからなかったが、「サインが半分切れていて読めない。でも、見ているだけでドキドキしてきたので、これはお気に入りの大好きな装丁に入りそうだ。もしかしてかなりの掘り出し物かも。やった〜かもね!」などとつぶやきながら、ちょっと微笑んでしまった。


クズカゴに捨てた「古書を包んでいたビニール袋」を探し出し、セロテープにはぎ取られた文字の部分を見つけ出してきた。何とかこれをセロテープからきれいにはがせないものかと思案をし、とりあえず、シンナーに浸して見た。はがす部分の紙はかなり薄いもので、力を加えるとすぐにくしゃくしゃになってしまいそうなので、たっぷりのシンナーに浸したままで、セロテープと紙の間に、ゆっくりとカッターの刃を忍び込ませ、すくい取るようにしたら、案外あっさりとテープからはずす事が出来た。


今度はこれをうまい具合に、元の位置に貼込まなければならないが、これまたどうやって貼ったら良いものか、思案中。



「文」の文字が復活した佐野繁次郎:装丁、浅間六郎『霧の夜の客間』(新潮社、昭和五年)。糊を使ってエイ、ヤッと、貼ってしまいましたので、微妙に位置がずれてしまいましたが、ま、はがれたままにしてしまうよりはましとしよう。