夢二装丁、『ジョセランの子守歌』(セノオ音楽出版社、昭和4年15版、初版=大正13年)

先ほど、仕事で出かけたついでに、神保町で友人が経営する古書店・晴玉に寄ってみた。装飾図案文字の話をしたらこのセノオ楽譜を見せてくれたので、早速購入した。以前にも夢二は創作文字を早くから取り入れたパイオニア的存在であることを話したが、この楽譜も見事な装飾図案文字が使われている。必ずしも読みやすいとは言い難いが、楽しさは倍増だ。


先ほども、ある出版社で、黄土色の布にタイトルを金箔押したら、担当編集者は読めないわけではないしせっかくいいイメージを出しているのでこれでいいと主張したが、上司は黒い文字とかもっと読みやすくできないか、といともたやすく発言する。


それで、コパーというもっと濃い色の金箔押をしてみたが、読みやすくはなったがイメージは悪くなってしまった。こんな具合に、読みやすさを主張するのは周りを説得しやすく誰もが理解してくれてさも正論に聞こえるかもしれないが、実は大きな間違いをしているのに気がついていない。最終的には担当者の意見が通って最初の金箔押になった。読みづらいということは必ずしもデメリットではないことをこの夢二の楽譜も証明しているように思える。


夢二の文字だけではなく初山滋の文字でも、読みやすさだけとりだせば活字の方が読みやすいに決まっている。そんなことは最もらしい説明を加えて指図されなくとも創作者はみんな分かっている。分からないのは上司が何をかんがえているのかだ。