大貫伸樹の続装丁探索(恩地孝四郎)8

shinju-oonuki2005-06-30

 恩地にとっての、夢二と和田の違いをこう考えることは出来ないであろうか。和田の作品は一品制作である。夢二の作品は複製物である。自然主義的絵画と対象抒情的挿絵という表現スタイルの違いだけでなく、一品しかない芸術作品とオリジナルが初めから複数存在する複製美術の違いである。
 
 大正時代は機械化による大量生産時代の幕開けともいわれ、工業製品やマスメディアなど大量複製物がもてはやされた時代である。恩地が自然主義絵画を否定して抽象絵画を選択し始めた時もそうであったように、外部からの刺激のみに動かされたのではなく、外的要因の影響を受けて動かされる以前から、自らの中に潜在的自然主義絵画を否定する感性が生まれていたのである。そうでなければ、僅かな刺激にそんなにも急激に抽象絵画を身に付けたりは出来なかったであろう。
 
 同様に、複製美術や大量複製時代の到来を予感していたのではないだろうか。ファインアートとしては版画を選択し、応用美術として装丁を選択した時に、美術家としての方向性をしっかりと見つめていたに違いない。
 
 そんな恩地の複製美術という表現の世界でやって行こうとする未来への指標を示してくれたのが夢二であり、夢二の魅力は、複製美術の世界で活躍している先輩と言う事だったのではないだろうか。後に恩地は写真にも興味を持つが、これも複製美術である。オリジナルが、初めから複数存在する魅力とは一体なんだったのだろうか。