2012-11-09から1日間の記事一覧

鶴三は『孤雁遺集』(非売品、昭和5年)序に「彫刻家としての君を知る人は多いが、其前身が挿絵画家であった事を知る人は少ないでありましょう。少(わか)くして米国に渡り彼地で挿絵を専門に研究されたのであります。帰来我国に洋画風の挿絵の普及に努力されたのでありますが、当時は浮世絵風の挿絵が専ら行われて居た時代で、時節の早かった為め君の努力も人の顧みるところとならなかったのは、折角の宝ももちぐされにした感があって惜しいことでありました。其の後10年にして漸く洋画風の挿絵が世に行われるようになりましたが、君の努力が先

石井鶴三が描いた洋画風挿絵が評価され挿絵界に大きな影響を与えたことは既に知られているが、それ以前に、受け入れなかったとは言え長原止水や戸張孤雁の洋画風挿絵への挑戦があった。止水については、後に明星などでも活躍するので比較的簡単に資料を入手する事が出来るが、孤雁は挿絵画家へ見切りをつけて彫刻家に転身した為、挿絵画家としての文献や資料は少ない。

そんななか、戸張孤雁:挿絵、木下尚江『小説 乞食』(昭文堂蔵版、明治41年)が届いた。当時流行っていた浮世絵風の挿絵とは全く違う画風のモノクロームの挿絵が2点挿入されており、その写実的な画法は石井鶴三:挿絵、上司小剣『東京 第一部愛欲篇』(大鐙…