昭和16年(30歳)の時に野村胡堂「銭形平次捕物控」(「オール読物」連載)の挿絵を担当し、コンテ(鉛筆)を使って描いた話は一度書いた。が、同じ「銭形平次捕物控」が『国民の文学 第6巻』(河出書房、昭和43年2月)に入っているのを見つけた。「太陽」に連載された「男振」を探して早稲田の古書街を散策しているときに、店頭の棚の下段に、どこか見覚えのある絵があるのを見つけた。これはまちがいない!そう思うと古書価100円だけを確かめ、挿絵家名を確認もせずに購入した。

この全集には18点の挿絵(うち8点がカラー)が、あらたに描き直されて掲載されている。



中一弥:画、野村胡堂銭形平次捕物控」(「オール読物」連載、昭和16年〜)30歳

30歳の時の絵と、四半世紀をすぎた56歳の時の同じタイトルの絵を見比べてみると、線が軟らかくなってきているのが分る。
参考の為に、まだ師匠・小田富弥の影響が色濃く残る「江戸城心中」の挿絵も見比べてください。ついでに小田富弥の絵も見比べてください。



師匠・小田富弥:画、大佛次郎「照る日曇る日」(「大阪朝日新聞」、大正15〜昭和2年



中一弥:画、吉川英治江戸城心中』(「河北新報昭和5年)19歳


師匠の影響を乗り越え、独自のスタイルを確立し円熟味もましてきた50歳代の絵もいい絵が多い。中一弥の最盛期は40歳代だけではなく50歳代も含めるに変更か?



中一弥:画、野村胡堂銭形平次捕物控」(『国民の文学 第6巻』全26巻、昭和43年)56歳



中一弥:画、野村胡堂銭形平次捕物控」(『国民の文学 第6巻』全26巻、昭和43年)



中一弥:画、野村胡堂銭形平次捕物控」(『国民の文学 第6巻』全26巻、昭和43年)


中氏の挿絵には、庭や建物などの背景がしっかりと描かれているのが特徴の一つでもある。しかし、私は若い女性が登場すると絵が生き生きしているのを見逃さない。若いころから美人を見つけるとスケッチをしてきた、というだけあって、美人画は特別の魅力を感じさせる力がある。



中一弥:画、野村胡堂銭形平次捕物控」(『国民の文学 第6巻』全26巻、昭和43年)



中一弥:画、野村胡堂銭形平次捕物控」(『国民の文学 第6巻』全26巻、昭和43年)

11月にJR日野駅前にある実践女子学園生涯学習センターで「美しい本の話」と題する講座を3回に渡って開催予定。毎回たくさんの本をもっていきますので、実物を手に取ってご覧下さい。



受講料=3,150円
・日 程=11月2日、11月16日、11月30日(いずれも10:30〜12:00)

・内 容=1.洋装本の伝来と装丁の始まり
     ─橋口五葉の漱石本とアールヌーボー

    2.幾何学模様の装丁は今でも斬新
     ─恩地考四郎の前衛美術装丁─

    3.廃物を利用した豪華な装丁
     ─番傘などを使った斎藤昌三のエコ装丁─

・申込・問合せ=TEL.042-589-1212 FAX.042-589-1211
       (日・祝日は休館)
フリーダイヤル=0120-511-880(10:00〜17:00)
HP=https://www.syogai.jissen.ac.jp
・場所=〒191-0061東京都日野市大坂上1-33-1(JR日野駅前)


古い番傘を利用した斎藤昌三『書痴散歩』(書物展望社昭和7年