昔、コーデュロイ(ベルベット、コールテン)の足袋がとても高級そうで温かそうに見えたが、私は綿の足袋しか履いたことがなく、そんな昔の思い出がコーデュロイへのあこがれにつながっているのだろうか。暖かそうでぬめっとした肌触りの快感があるコーデユロイを使った装丁にも食指が動くが、布を使った装丁の中ではやはりコーデュロイ寄りはやや湿り気を感じるシルクを使った装丁はエロスを感じさせる資材の最右翼といえる。
20世紀初頭の最大の臨床精神医学者の一人といわれるガシアン・ド・クレランボーはフェティシズムの女性を診察し、次のようなシルクへの情欲ともいえる貴重な言葉を蒐集している。
「ビードロも好きですが、絹には劣ります。サテンは嫌い。ファイユのほうが柔らかいし擦れる音がするので好きです。絹の感触は見た目も素晴らしいけれど、その擦れる音はもっと素敵です。興奮して濡れてきて、もうどんな性的な喜びも比べものにならないくらい」(港千尋『群衆論』リブロポート、1981年)と、シルクのもたらすエロティシズムが赤裸々に記録されている。