「丸裸で……」にも登場したように、私も蔵書票に何度かカラスを取り入れて描いた。カラスへの興味は、高橋忠弥:装丁、深沢七郎『楢山節考』(中央公論社、昭和32年)の表紙絵に魅せられたのがきっかけだ。カラスというのは、昔から日本人の生活に深く結びついていて、絵としてもたくさん残されているのではないだろうか? というのが興味の発端でした。高橋忠弥の装丁本への興味も、『楢山節考』がきっかけになり、今では100冊近く所有しているのではないかと思う(数えたことがないので解らないが)。



高橋忠弥:装丁、深沢七郎楢山節考』(中央公論社昭和32年)表紙


カラスは、私の田舎では、人が死ぬと集まってくる不吉な鳥とされ、ひなを育てたり、カラスをからかったりしてはいけないと言い聞かされていた。実際、私が小学生の時に、近所の床屋さんがカラスのひなを巣から取ってきて育てようとしたが、その家の屋根に、数十羽のカラスが飛んできて、大きな声でカアカアと、叫んだので、たまらず、ひなを巣に戻した。その時に、たくさんのカラスから猛攻撃を受けて怪我をしたのを見た。


それからは、カラスと目を合わせないようにしていたが、つい先日、なぜか電線に止まっていたカラスの子が、なぜか突然私の黒い帽子めがけて飛んできた。私は身を翻しそれを交わしたが、子ガラスは、路端に墜落して、カアカア泣き叫んだ。それを見ていた親ガラスが、私の後頭部をめがけて、両足で飛びヒザケリをかましてきて、私はソフトボールをぶつけられたくらいの衝撃を後頭部に受けた。私は、普段から近所のカラスは「グエグエ」と鳴くので泣き声が下手だといって、バカにしていたことをその時深く反省した。



恐らく、忠弥にも同じようなカラスにまつわる伝説が伝わっていたので、「姥捨」をテーマにしたこの本の装画にカラスを選択したのではないかと思われる。


その後忠弥の装丁には、次々とカラスが登場する。
高橋忠弥:装丁、富島健夫『雌雄の風景』(河出書房、昭和39年)見返しにも登場する。



見返し


タイトルの「雌雄」を表現するだけなら、オシドリなどのもっと相応しい生物がいそうな気がする。箱にはカブトムシが描かれているように。



高橋忠弥:装丁、富島健夫『雌雄の風景』(河出書房、昭和39年)函


見返しにカラスを選択したのは、特に意味があるわけでもなく、忠弥のこのみであり、選択だったのだろう。



小檜山博『出刃』(構想社、1976年)でも、忠弥はカラスをモチーフにしている。
巻頭に、子供たちを自転車に乗せ、山あいの部落にある父の家に預けにいく場面がある。途中、カラスが5、6羽で猫を襲い、ハゲタカのようにむさぼっていて、近づいても逃げず、3人を見続ける。カラスにどう猛さを感じ、子供たちの震えが伝わってきて、自分もいらいらしている。そんな場面に登場するカラスを表紙にしたのだろう。目付きが鋭く威圧感のあるカラスを描いている。



高橋忠弥:装丁、小檜山博『出刃』(構想社、1976年)ジャケット