『その儘使へる絵と実用図案文字』

表紙の文字は黄土色の地に金箔押ナノで、金箔の輝きがなくなると文字は地の色と似た色になり読めなくなってしまう。せっかくモダンなタイトル文字なのだが、画面では見えづらいのではないかと思います。


十時柳江『その儘使へる絵と実用図案文字』(弘文社、昭和2年)がこの本。表紙は残念でしたが、最初のページからなかなか見事な図案文字と絵が飛び出してくる。かなり前衛美術的で絵もうまい。私が所有しているのは初版なのでどのくらい売れたのか分からないが、売れて欲しい良い本だよね。


十時柳紅『その儘使へる 絵と実用図案文字』は近代文藝社から昭5年に発行されている。昭和2年に発行された弘文社版が売れなかったので版元が代わったとも考えられるが、詳細は不明。名前の「江」が「紅」に代わっているが、著者名の誤植ということは考えにくいので、或は海賊版のため、わざと一字を代えたのか? あくまでも推察でしかありません。




車、飛行船、大型船などなどアールデコ様式に影響を与えた工業生産された機械が次々に飛び出し、それらの絵がモダニズムしているにのは魅かれるね。



あのプロレタリアアートの柳瀬正夢や岡本唐貴等に影響を与えたグロッスのタッチを取り入れたと思われるような挿絵もあり、大正末期のアヴァンギャルド美術をかなり意識して取り込んでいるのも、みごと。



著者の十時柳江については、残念ながらいまのところ何も分かっていない。文字の形やバランスがとってもかっこよくて好きなんですが、残念です。大阪で印刷しているので関西の人かもしれません。十時柳江についての情報をご存知の方がおりましたら教えてください。
下の写真は薬局の広告ですが、こんな文字をキネマ文字と云うのでしょうね。