最近のキネマ文字


『新版丹下左膳』の場合のキネマ文字はレトロなイメージを喚起するために用いられていたが、
今回の伴田良輔『女の都』(作品社、1992年)造本=祖父江慎は、古いということだけではなく、女っぽさをも表現する文字として採用されている例だ。キネマ文字は女性を象徴する記号にも変身することができる便利な書体だ。


確かにこの曲線は女っぽいかもしれない。アールヌーボーの影響を受けているとしたらもろだよね。
女、髪の毛、昆虫等がアールヌーボーなんだから。


少し古い本も紹介しよう。

山村暮鳥『ちるちり・みちる』(洛陽堂、大正9年)装丁=小川芋銭
・長尾豊『夏季学校お話集』(厚生閣、昭和3年)装丁者不明




大正9年に「ちるちる・みちる』の文字を制作したとしたら、結構早い時期の装飾文字といえる。それにしては良くできたデザインではないかなと思う。
なぜなら、この本が発行されるより前には、「装飾図案文字』の書体集のような書物はほとんど発行されていないからだ。私は未見だが稲葉小千『実用図案装飾文字(興文社、1912[大正元]年)がある程度で、管見する限りこれ1冊しかない。


デザイン的にも結構こなれていてまとまっているので、このときいきなり新書体を作ってみようと思ったのではなく、雑誌広告などで似たような文字を見て、それをアレンジしたのではないかと思われる。それだとしてもこのロゴタイプはおしゃれで完成度が高い。


『夏季学校お話集』は、結構いい装丁をしているというのに、どこにも装丁者の名前が記されていない。表紙の絵といい、背中の文字デザインといい、かなりの人物が制作にかかわっているのではないかと思えるのだが、残念。どこか画面の一部にでもイニシャルなどを残しておいて欲しかった。